【1on1とは】整骨院のスタッフが辞めないために、院長ができるたった15分の習慣
石井 武
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「1on1(ワンオンワン)」——近ごろIT企業などでよく耳にする言葉ですが、整骨院の世界では、まだそれほど広く語られていないかもしれません。
「上司と部下が定期的に一対一で話す時間」と聞いても、「うちには縁のない話だ」と感じる先生も多いのではないでしょうか。
今回お伝えしたいのは、まさにその「縁がない」と思われがちな習慣が、実はスタッフの定着に静かに効いてくる、というお話です。
導入を強くおすすめするというより、「一度、試してみる価値があるのではないか」というご提案として、お読みいただければ幸いです。
目次
「1on1」とは、どんな時間なのか
まず、言葉の整理から始めさせてください。
1on1とは、上司とメンバーが一対一で、定期的に行う対話の時間のことです。
IT企業を中心に広まった手法で、一般的には月に一度から隔週、時間は15分から30分ほど。
特別な会議室も、分厚い資料も必要ありません。
最大の特徴は、話す内容です。業務の報告や進捗確認が目的ではありません。
テーマは、スタッフ自身のこと——今の仕事で感じていること、つまずいていること、これからどうなりたいか。つまり1on1は、「院長が伝える場」ではなく「スタッフが話す場」なのです。
整骨院に置き換えれば、こうなります。施術の合間の立ち話でも、全員が集まる朝礼でもなく、スタッフお一人と時間を区切って向き合い、ただその方の話を聞く。それだけのことです。
とはいえ、この時間がどの院にも必要だとは限りません。日々顔を合わせているから会話で足りている、育成はOJT中心で現場で伝えれば十分、話す場といえば評価面談がある——どれも間違いではありません。
大切なのは、他院がやっているかどうかではなく、先生の院に取り入れる価値があるのかどうか、その一点だと思います。
ここからは、1on1が自院に何をもたらすのかを、具体的にお話しします。
人は「静かに」辞めていく
多くの院長先生が、スタッフの退職を「ある日突然」の出来事として受け止めています。
しかし現実には、退職の決断がある日いきなり生まれることは、ほとんどありません。
小さな不満、聞いてもらえなかった提案、報われないと感じた瞬間——そうした一つひとつが、心の中に少しずつ積み重なっていきます。
心理学に「ツァイガルニク効果」という概念があります。
人は、完了したことよりも、中断され未解決のまま残ったことを、強く記憶し続けるという性質です。
スタッフが抱えた「言えなかったこと」は、消えるどころか、未完了のまま心に居座り続けます。
そしてそれが臨界点を超えたとき、はじめて「辞めます」という言葉になって表に出てくるのです。
日々の忙しい会話の中では、こうした小さな声は、どうしてもすくいきれません。
だからこそ、意識的に「話を聞く場」を用意しておくことに、意味が生まれてきます。
試す価値①|「話せる場がある」こと自体が効く
ここで一つ、朗報があります。
スタッフとの信頼関係を築くために、特別なコーチングの技術や、気の利いた助言は必ずしも必要ありません。
心理学に「単純接触効果(ザイオンス効果)」という有名な法則があります。
人は、繰り返し接する相手に対して、自然と好意や安心感を抱くようになる、というものです。
これは1on1にそのまま当てはまります。たとえ月に一度でも、「あなたのための時間」が確保され、院長と一対一で向き合う機会が繰り返されること。
その積み重ね自体が、スタッフの心理的な安心感を育てていきます。
大切なのは、話の中身よりも、そうした場が「用意されていること」です。
施術の合間の立ち話で済ませていた会話を、たとえ15分でも「あなたのための時間」として切り出す。
それだけで、スタッフの受け取り方はまるで変わります。
「院長は、施術の手を止めてまで、自分の話を聞こうとしてくれている」——この実感こそが、定着の土台になるのです。
試す価値②|「評価面談」とは、まったくの別物
ここで、ひとつだけ大切な区別があります。1on1は、査定や評価を伝える場ではない、ということです。
評価面談は、院長からスタッフへ「評価を伝える」場です。主役は院長であり、話の矢印は上から下へ向かいます。
一方で1on1は、スタッフが「話す」ための場です。
主役はあくまでスタッフであり、院長の役割は、評価を下すことではなく、ただ耳を傾けることにあります。この2つは、似ているようでまったくの別物です。
近年、組織論の世界で「心理的安全性」という言葉が注目されています。
「ここでは何を言っても、否定されたり評価が下がったりしない」とメンバーが感じられる状態のことです。この安全性がない場所では、スタッフは決して本音を口にしません。
「こんなことを言ったら、評価に響くかもしれない」——そう感じた瞬間に、対話の扉は閉じてしまいます。
ですから、もし試されるなら、先生はぜひ「聞き役」に回ってみてください。
アドバイスをしたくなる気持ちをこらえ、「それで、どう感じたの?」と問いを返す。
答えを与えるのではなく、スタッフ自身が言葉にするのを待つ。
その姿勢こそが、これまで拾えなかった小さな声を、少しずつ引き出していきます。
さいごに
スタッフの定着は、給与や待遇だけで決まるものではありません。
「自分は、この院にきちんと向き合ってもらえている」——その実感の積み重ねが、人を院に留まらせます。そして、その実感を育てる最もシンプルな方法が、一対一で、ただ話を聞く時間なのだと思います。
それが自院にも効くのかどうかは、試してみなければ分かりません。
ですから、まずは一度でかまいません。15分だけ時間を取り、お一人のスタッフと向き合ってみる。
そして手応えを感じられたなら、月に一度の習慣にしていく。
1on1の力は繰り返しの中で育つものですが、その入り口は、たった一度の15分で十分だと私は思います。
こうした時間を生み出す土台になるのが、日々の業務の効率化です。
真のDXとは、単なる作業の自動化ではありません。機械に任せられることを仕組みに委ね、そうして生まれた余白で、患者様とも、スタッフとも、じっくり向き合えるようになること。
その先にこそ、人が辞めない、地域で選ばれ続ける院の姿があるはずです。
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著者
石井 武
株式会社クロスリンク 取締役 CTO。
埼玉県出身。二児の父。
WebメディアやBtoBシステム、ECサイトなど、Web業界で15年以上にわたり、プロダクト開発、マネジメントに従事。
2023年に株式会社クロスリンクに開発責任者として入社し、プロダクト開発をリード。